
華波(かなみ)です。
まいど!
公式LINEの中のコンテンツで
「七十二候✖️舞台の登場人物」の短編小説の企画をやっておりまして、(以下略。前回記事参照)
日常のことは個人ブログにしたためまくっているので、
劇団ブログが逆に手が鈍るというアンビバレンスと戦ったすえ、
とりま、勝手に短編を続けるのが一番、気が楽という結論に至りました。
というわけで、引き続き、勝手に、誰に頼まれているわけでもなく、完全に、好きで、書きたくて七十二候番外編を書きまーす。続・奇人〜!
というわけで、以下。
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七十二候
葭始生(あしはじめてしょうず)✖️黄金の仔リス団所属リスNo.16(『他人の飯には骨がある』)
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そのバーは、西地区の中央広場のほど近く。
薬屋と雑貨屋が入り混じったような赤茶色の店の裏手に生えている、大木の洞(うろ)にあった。
看板も下がっておらず、入り口の両開きの扉は木の皮で偽装されているため、一見なんの変哲もないただの大木であり、ゆえに仲間内でこのバーは「隠れ家」という呼称で通っている。
この日は、少しばかり悩み事があり気晴らしに立ち寄った。
手を使うのも億劫で、体で扉を押し開けて中に入ると、外の眩しさとは一転、薄暗い店内に目が慣れるのに数秒時間を要す。
日中ということもあり、客もまばらだ。
それでも寒い時期はこの時間でももう少し賑わっていた気がするのだが。気候が良くなるとこぞって外に出たがるのは、皆一緒というわけか。人間も、
ーーーリスも。
はじめこそ客リスたちの視線が視線がこちらに集まるも、見知った顔だとわかるや否や皆それぞれの会話や作業に戻っていった。
顔見知りと2、3言挨拶を交わして、カウンターに腰掛ける。
すかさず、コノハズクのマスターが、「あたたかくなりましたね」とかなんとか挨拶替わりの文言を放ちながら、おしぼりを差し出してくれた。
(このおしぼり、綿の実から出る白い綿をちぎったものを、湿らせて蒸らしたものだそうだ。一度自分が何で顔を拭いているのか気になって聞いてみたことがある)
まったくですね、と答えながらおしぼりで顔と前足と、失礼ながら脇まで拭かせていただく。
「スカッシュ。いちじくの」と、注文を口にしたところで、後ろから尻尾をど突かれた。
「よう」
仔リス団の団員仲間。通称No.2。荒くれ者の多い団員の中でも、腕っぷしも強く、切れ者で人格者(リス格者)と名高いリスだ。
「おや、どうも」
「No16、久しぶりじゃねえか。お、また痩せたんじゃねえか?」
皮肉である。
自慢ではないが、自分はリスの中でもとびきり肥満体質で、平均的な他のリスより5倍は大きい。このバーの入り口だって、正直ギリギリサイズである。今だって、少し隣の椅子にはみ出している。
「まあ、寒かったもんな、寒い時期は痩せるわな、リスは。食いもんも減るしな」
皮肉ではないのかもしれない。
もしかして、本当に痩せたのかも……いやいや、
「食いもんないったって、自分らは、たらふく食わしてもらってるじゃないっすか」
自嘲混じりにそう返すと、No.2は「ちげえねえや」とガハガハ笑って、カップをあおった。
黄金の仔リス団は、多少は仕事にリスクが伴うが、衣食住は過分と言っていい程に提供されている。
「で、お前、なに悩んでんだ?」
「どういう意味です?」
「ばーか。ここに来てカウンターに座って、いちじくスカッシュを頼む奴は、何か悩みがある奴って相場が決まってんだよ」
そう、なのか。
そうなのだろう。現に、今、自分も悩みを抱えてここに座っている。
「いちじくスカッシュ、お待たせしました」
まずは一口。弾ける炭酸が2、3ヒゲに飛ぶ。
果たして、この悩みは他人(他リス)に話すべき悩みだろうか。
「一回話した方がいいぜ。頭のな、整理がつくんだと、ひとに話すと。何か食うか」
食わない。まさに、そのことで悩んでいるのだ。
「あの、少し、」
No.2の真剣な眼差しが頬袋の脂肪に突き刺さる。
「少し、痩せたいなと思いまして」
また、ガハガハ笑われるかと思いきや、No.2の真剣な眼差しは相変わらず頬袋の脂肪に突き刺さったままだった。
「それで、あの、」
痩せようにも、いくら過酷に運動を重ねたところで、全く体型が変わらないこと。
団から支給される過分な量の食事が、負担に感じること。
過剰な分の食事は、万が一、怪我や病気で働けなくなった時のために(あの団長はそんなことで解雇はしないと思うが、こちらにもリスなりのプライドがある)貯蔵しよう思ったこと。
その木の実は地面に掘った穴に貯蔵していたこと。
その貯蔵場所に隣接した建物が倒壊し、
弾みで付近の地下水が滲み出て、水害が起きたこと。
ーーースラスラ喋ってしまった。
No.2はリス格者な上に聞き上手らしい。
「あ。じゃあ、おめえ、まさか例の」
「はい」
地面を軽く掘って固めただけの貯蔵庫は簡単に崩壊し、土と共に地下水に押し流され、
そこに眠っていた数多の木の実にはたっぷり水が行き渡り、
自然の摂理道理、やがて、
芽が、出てしまった。
倒壊し廃墟と化した建物を囲うように。大量に。
気候も手伝ってか、それはもうニョキニョキと伸びた。
突然の植物の出現と、廃墟の不気味さも相まって今や人間の間でも「巨大人の墓跡」などと呼ばれはじめ、怪奇現象扱いである。
「やっちまったなあ!」
「はあ」
No.2は再びガハガハと笑った。
やっちまった。それに尽きる。
「でもなあ、どうしようもねえなあ」
どうしようもない。
出来ることといえば、植物の成長を見守るだけ。
ただ、痩せたいだけだったのに。
はて、なぜ自分は痩せたいのだったか。
「まあ、そんなにしても痩せねえんじゃ、そりゃお前、体質だ体質。困ってねえんだったら、誇って生きろ。それにおめえが痩せちまったんじゃ、俺らは”お話し合い”の時に誰を用心棒として後ろに立たせときゃいいんだよ」
健康である。仕事にも役立つ。バーの扉もギリギリ入れる。
「それに俺は今のままのおめえのこと、すげえかわいいと思ってるぜ」
突如。
心の中に埋めた木の実から、知らない感情の植物がニョキニョキと芽吹いてきたのを感じた。
その、植物が、なぜかもう1杯くらい、このリスと一緒に飲みたいと言ったので。
「No.2。あの、飲み物が空です。次どうしやす?」
「じゃあ、そうだな、いちじくスカッシュを」
自分は彼ほど聞き上手になれるだろうか。
マスターに声をかけつつ、彼から見えない角度でそっと、尻尾の付け根につけたお気に入りのピンクのリボンをキュっと結び直した。
<了>
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じゃあ、また。次回!!!
マスター「え?なぜリスのバーのマスターに?はは。ご存知ありませんか?まあ人間は知らないか。荒くれた小動物を牽制する意味でね、バーのマスター職は基本的に猛禽類が就くことになっているんですよ」

