蚯蚓出(みみずいずる)✖️黄金の仔リス団所属リスNo.55(『他人の飯には骨がある』)|担当:華波

華波(かなみ)です。
まいど!

公式LINEの中のコンテンツで
「七十二候✖️舞台の登場人物」の短編小説の企画をやっておりまして、(以下略。前回記事参照)
https://tri-angle.online/2026/04/15/kanami4/
https://tri-angle.online/2026/04/22/kanami5/
https://tri-angle.online/2026/05/06/kanami7/

今回は、蚯蚓(みみず)。ミミズか。
めっちゃいやだな。

と、シンプルにミミズを嫌厭していたのですが、七十二候をやっている身としては避けて通るわけにもいかず、いま書かないと来年に持ち越しになるってコトォ!?と、一人ちいかわを繰り広げた挙句、少しも早く済まそうという結論に至りました。

引き続き、勝手に、誰に頼まれているわけでもなく、完全に、好きで、書きたくて七十二候番外編を書きまーす。
♾️奇人〜!(いんふぃにてぃきじん)

サントリー美術館にて、暁斎展を拝見しまして、この狂いを大切にしていこうと思った。
水曜日以外は、個人ブログにいます!
https://ameblo.jp/merry-go-tokyo/

というわけで、以下。


七十二候
蚯蚓出(みみずいずる)✖️黄金の仔リス団所属リスNo.55(『他人の飯には骨がある』)

あちこちのテーブルで、ここいらのミミズは旨いだの、あっちのミミズは前シーズンに食いすぎて土が枯れただのが話題にのぼる季節になった。

ここは昼夜問わず、様々な職業のリスがたむろするバー。通称「隠れ家」。

西地区の中央広場の脇、赤茶色のレンガ作りの雑貨店の裏手に生えている大木の洞(うろ)を活用した、よくある作りのバーだ。

ほどよく欠けた壁のレンガを足場にしながら、戯れに窓から雑貨屋を覗き見し(たいていは窓辺には草を束ねたものが均等に逆さ吊りされており、店内の様子はよく見えない)、屋根づたいに大木の中腹に向かえば、バーまで多少は近道になる。

この日、まだ日の高いうちに一仕事終えた黄金の仔リス団リス団員No.55は、
4人がけのテーブル席を1匹で占領し、いちじくスカッシュを片手にのびのびと寛いでいた。

入り口の両開きの扉が、力無く開くまでは。

このバーは看板も下がっておらず、出入り口の扉は木の皮でカモフラージュされている。
ゆえに「隠れ家」という店名で通っているわけだが、裏を返せば、一見のリスが通りすがりにふらっとやって来るような店ではないということだ。

が、どう見ても、そのリスは”常連”という雰囲気ではなかった。
足取りもおぼつかず、頬もこけ、疲れ果てた様子の彼は、
左前足に小粋に巻いたボロボロの赤いバンダナで、街に暮らすリスとしての最後の誇りを繋ぎ止めているように見受けられた。

「あの」

枯れた声を絞り出した赤バンダナのリスは、なんとかカウンター内のマスターのところまで辿り着こうと懸命に足を進めるも、あと数歩のところで力尽きーーー
倒れこんだ先は、奇しくもNo.55のくつろぐテーブルだった。

「おいおい、勘弁してくれよ」
「すみま……せん、あの、お水を一杯、」

珍しく、しばらく呆気にとられていたコノハズクのマスターは、そこでやっと我に返って「お水、お水ね」と言いながらカウンター内で何やらバタバタと始める。

「まあ、事情は知らんが、まずこれでも飲め。飲みさしで悪いな」

通常、No.55は他リスに対して干渉することは殆どない。
だが、この時ばかりは、目の前のガリガリのリスにただならぬ雰囲気を感じ、たまには世話ってやつでも焼いてみるか、という気分になった。

「ありがとう、ございます。ですが、水は水でいただきたく」
「しけたこと言ってんじゃねえよ、奢ってやるから。マスター、こいつにもいちじくスカッシュを」

マスターは聞いてか聞かずか、背中で返事をした。

「お前、どうしたんだよ」
「はあ、実は」

森に近いところに住み、食うにも困らずフラフラと遊び暮らしており、
冬は暇だから今年はいっちょ冬眠というやつでもしてみるかと適当なところで巣篭もりしていたところ、
先ごろの森林火災で焼け出された。
さらに、毎年、餌場にしていた土地は、水害でやられて食うや食わずや、昔、友人に連れられてきたこのバーをふと思い出したのだという。

「散々です。あそこの土のミミズは本当に栄養があって素晴らしかったのに」
「そりゃあ、お前、」

お前、真っ当に働きもしないで、怠け暮らしをしたツケが回ってきたんだよ。

とは言えなかった。目の前にいる痩せたリスがあまりにも悲壮感に溢れていたので。
「そりゃあ、お前。気の毒だったな」
「ええ、本当に。焼け死ぬところでしたが、僕は目と鼻がいいので、なんとか先んじて逃げ出すことができて。」

だが逃げた先にも肥沃な大地はなく、人間の手が入り整備された道となっていたのだという。

「でも、他にもあるだろ、この辺は。食うもんだってたくさん」
「僕もそう思いました。そう思って、移動しようとした矢先に、」

ことり、と、いちじくスカッシュが置かれた。

「同胞が、申し訳ありませんでした」

気づくと、コノハズクのマスターが大量の水とおしぼり、そしてーーー
消毒液を持ってテーブルの横で頭を下げていた。

「いえ、あっちも弱った肉を狙っただけで。僕だってミミズも虫も、浅いところにいる愚鈍なやつから食べますので。自業自得です」
「だとしても、申し訳ありませんでした」

目の前のやりとりを聞いてなお、No.55は状況が掴めていない。

「ほら、僕、目がいいので、すんでのところで避けて、左前足で済みました。あちらはがっかりしたでしょうが」

右目に眼帯をしたNo.55は、そこでようやく、左前足に巻いたバンダナは、赤いわけではなく、この憐れなリスの血なのだと気づいた。

「悪い、俺は右目がいかれちまってるもんで、左目も引っ張られてな。よく見えなかった」
「あなたが謝ることも、マスターが謝ることも、なんにもないですよ、僕が間抜けだっただけです。いてて」

だとしても。
隻眼のリスの頭に”引退”の2文字がよぎった。
黄金の仔リス団員は、人間22名(変動あり)リス56匹(変動なし)で編成されている。
団長が制定し、書籍『黄金の仔リス団設立秘話』にも書き残されたこのルールは絶対で、代わりを見つけないことには、引退もままならない。

「なあ、お前、」

傷が治ったら黄金の仔リス団で働かないか。

この時、なぜ軽率に目の前の痩せたリスをスカウトしたのか、よく覚えていないのだ、とNo.55は語っている。
ただ、自身が、未来の短いリスであることを自覚したその瞬間に、傷を負いながらも、目がよく使え、鍛えればどこまでも育ちそうな若いリスが眩しかっただけだと笑う。

のちに、団員内で、団員リスはNo.0からNo.55までしか居ないのに、56匹(変動なし)では、
いささか分かりにくいのではないか、という無理やりな意見が何故か押し通り、猛禽類に立ち向かった勇敢なリスは武勇伝を引っ提げて”No.56”として団に迎えられた。
No.55は、”指南役”として相変わらず明るいうちから「隠れ家」に入り浸っている。

じゃあ、また。次回!!!

マスター「耳がなかった?ではフクロウですね。え?一緒にしないでくださいよ。はは、大したことじゃないんですが、昔ちょっとありましてね」

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