麦秋至(むぎのときいたる)✖️パン屋(『他人の飯には骨がある』)|担当:華波

華波(かなみ)です。
まいど!

たまに訪れる場所に大きめの油絵がかかっていて、
2年間くらい、ぼんやりと「(この絵は誰のなんなんだろうな)」と思っていたところ、
今日やっとその施設の顔見知りと二人きりになるタイミングが出来て、やっと尋ねることが出来ました〜!

絵の作者にもまあまあ吃驚して、へえ、と、
改めてしげしげと”乳児を抱く父親らしき人物画”を眺めていたところ
定位置に戻った彼が他の作業に移りながら「そして」と続けた。

「その抱かれている赤ん坊は、僕です」

目を見開き、ゆっくりと振り返る。
台風の始まりを告げる風が、窓辺に座る彼にまとわりつくようにカーテンを揺らした。

急にミステリー小説の最後みたいな台詞言ってくるじゃん!!!!!
吃驚して探偵ドラマみたいな動きしちゃったよ!!!!!!

今日は七十二候書こうと思ってたのに、冒頭の現実世界の出来事で満足してしまった。
現実が空想を超えてくるんじゃあないよ。
でも書きます。

ミュージカル「他人の飯では骨がある」をご覧になったみなみなさまは、今回の主軸が誰かで「どうあがいてもバッドエンド」なのがわかると思いますが、今回は念の為に補足します。
以下、白文字にて。劇団ブログで白文字って出来るのかな。

<ここから(本編ネタバレあります)>

リグルドの実パパの話だよ!
子供の人身売買をやっていた人だよ!
リグルドの両親は若パティによって、この話の直後、すでにやられています!
あと子供ネタがNGな人もやめておいたほうがいい!くそー!リスの話を書いている時はこんな注意書きしなくてもいいんだけど、ごめんね!!人間ってやつぁよう!!自衛お願いします!

<ここまで>

白文字できませんでした。

ええい!ここまで言われたら本編を見るべ。となったそこのあなた!
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水曜日以外は、個人ブログにいます!
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というわけで、以下。


七十二候
麦秋至(むぎのときいたる)✖️パン屋(『他人の飯には骨がある』)

「ああ、ほら、いわんこっちゃない」

自身の背丈ほどの長さのパンを、自分が持つと言って聞かなかった子供が
案の定、店を出て1歩も歩かぬうちに、パンごと派手につんのめった。

母親は「ああ」だか「おお」だか、叫び声ともつかぬ声をあげて慌てて繋いだ手を引っ張り上げたと思ったら、右手に子供、左手にパンを抱え、よいしょと体を一振りした。

「悪いねえ、店先で」
「いいんだよ、うちのも歩き始めてからしばらく大変だった」
「あら、いつもいい子にしてるじゃない」
「うちは奥に危ないもんが多いから」

調理台はともかく、焼き窯はとにかく危ないの一言に尽きる。
自分の子供がずりずりと自力で這って移動するようになった当時は、世のことを一つも知らない生き物は、「火が熱い」と覚えるだけでこんなに時間がかかるのかと驚いた。自分はどうだったろうか。
比較的手のかからない子供だったと記憶しているが、唯一真実を知る母は家の奥で横たわったまま、誰のことも覚えていない。

気づくと、母子は店先から消えていた。

さて今のうちに、裏の仕事でも済ませるか。
焼き窯の方へ向かおうとしたと同時に、住居へと続く扉が、遠慮がちに開いた。

「どうした、うちの坊主は。腹が減ったか」

歩き始めは早かったが、言葉が遅い息子は、その問いにふるふると横に小さく首を振ったあと、なぜか、にんまりと笑った。
よしよし、そうか。父ちゃんのところに来るかと膝を叩くと、まんまと寄ってきた。
そのまま、先ほどの母親のように片手で息子を抱き上げる。

「ごめんなあ、まだちょっと忙しいんだ。夕方になったら遊ぼうな、それまで奥でいいこにしてられるか?」

一度抱き上げられて満足したのか、まるまるしたパンのような四肢の息子は、またにんまり笑って大人しく奥の部屋に帰っていった。

さて。奥に向かうと、今度は裏から戻ってきたばかりの女房と鉢合わせ。

「おう」
「じゃあ、あんた、店の方には私が」
「おう」

女房とは、人身売買の組織内で仕事をするうちに知り合った。
初めの印象は「手際がいい取引先の女」
続いての印象は「手際がいい取引先の体つきのいい女」

そうなってからは早かった。
夫婦で独立して”暖簾分け”されるにあたって、
これまで倉庫や商品の輸送地点が郊外や山奥にならざるを得なかったところ(音や臭いの都合上)、拠点を、子供の声がかき消される往来の激しい街中に構えた。

さらに、交通量の多い道で「使途不明な路面店」は長く保たないだろうと、
自らの手持ちの魔法を生かして、一番手間をかけずに量産できる「善良そうな」商品。
パンを売る店を構える。

こんな、代償も碌に無い、目にも見えない小さい魔法なぞ、と無視してきた魔法がこんなところで役に立つとは。

しっかり地下が整備されているか、臭いが漏れていないか、
漏れていればイースト菌を操る魔法を使って牛乳と混ぜてしっかり清潔に消臭する。

人の売り買いについて思うことはない。
俺もそうだったし、親父もそうだったし、周囲の大人と呼べるものはみんなそうで、その仕事をしていた。世に言う悪事、ではあるのだろうが、その感覚がない。
欠落しているわけでもなく、もともと「ない」のだろう。
パンを売り買いするのと何ら変わらない。なんならせっかく作ったパンが売れて店から出ていく方がまだ感傷的な気持ちが持てる。

一度、成人した商品に、物事の善悪を説かれ、気まぐれによくよく理解しようと努めてみたこともあったが、無駄だった。悪も善もわからない。ものを動かすのは、強大な力だけだ。
パン生地を台に叩きつけるが如く強大なーーー

そうだ、パン生地。麦。
もう、麦の発注の季節か。何度目になるだろうか。
案外パン屋の仕事も向いているのかもしれない。儲かりはしないが。
できることをして儲けないと。もう、家族がいるのだから。

息子のにんまり顔が浮かび、目を細める。
ふいに、頭の中で、広大な麦畑の片隅で、たわわに実った黄金の麦が大釜で刈り取られる様子が浮かび

ーーー悪寒が走った。

と同時に、地下から、爆発音に近い轟と聞いたことのない金属音が鳴り響く。
これが、魔法の代償だろうか。

じゃあ、また。次回!!!

パティ襲撃2分前。
轟は、ジェレミアがパティを敬愛した瞬間の音です。

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